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シンボルスカを知っていますか?

朝日新聞(宮崎版)文芸欄に連載中の本多寿さんのコラム「記憶の森から」。8月12日(水)掲載分には、敬愛するヴィスワヴァ・シンボルスカ(1923.7.2~2012.2.1)の詩が取り上げられていて、嬉しかった。
1996年のノーベル文学賞を受賞した彼女は、最も偉大なポーランドの詩人であり、20世紀最大の女性詩人と言われている。
男性的骨格の中にある皮肉とユーモア、微笑みを持って現実の矛盾と不合理を突く彼女の詩は「詩歌のモーツァルト」「言葉のエレガンスとベートーベンの激情との調和」などと評されている。

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『終わりと始まり』(1993年)

戦争が終わった後では
だれかが後片付けをしなくてはならない
張本人が
じぶんですることなど
まずあり得ないのだから

だれかが死体の満載された荷車を
通りすぎていくためには
道端の
瓦礫を突き崩さなくてはなるまい

だれかが
泥や灰
ソファーのバネ
ガラスのかけらや
血まみれのボロ布の中に
もぐりこまねばならない

だれかが壁につっかい棒をするために
梁を引きずっていかなくてはならない
だれかが窓にガラスを
そして蝶番に扉をはめこまなくてはならない

これは写真うつりがいいというものではないし
年月を要する
カメラというカメラは、もう
他の戦争のためにいってしまった

橋は元通りに
駅は新しく改装しなくてはならない
折り曲げた袖口は こんな仕事のために
ずたずたになってしまうに違いない
だれかが手に箒を持って
昔の思い出話をしている
そしてまただれかは頭をあげたまま
うなずいては 耳をかたむけている
しかし そのすぐ傍らで
退屈した人々が
ぶらつき始める

時として まただれかが
やぶの下を掘り起こし
錆びた書類を取り出し
廃物処理場へと運んでゆく

ここで何が行われていたのかを
知っている者たちは
僅かしか知らない人々に
場所を譲らなくてはならない
それは、少数派よりもっと少ない
そしてだんだんと一人もいなくなってしまう

因果応報 こんな戦争の後には
生い茂った草の中で
穂を口に咥えたまま横たわり
いつもだれかが雲を睨みつけたまま
雲をぼんやりと眺めていなくてはならないのだ



『世紀の子供たち』 (1986年)

われわれは 二十世紀を生き抜く子供たち
この世紀は政治的な時代
お前の われわれの そしてお前たちの
昼の用事 夜の用事
すべて政治的な問題にかかわりを持っている

好むと好まざるとにかかわらず
われわれの生きてきた時代は
肌の色が何色であるとか
目の色がどうであったとかいう
人種差別の時代であった

お前が発言すれば 反響がかえってくる
お前が沈黙すれば それはさらに雄弁な意味を持つことになる
いずれにしても政治的なこと

森や林を抜けて と
パルチザンの歌 歌いながら
行くことも政治的なこと

非政治的な詩を書きつけたとしても
やはりそれは政治的なこと
空に月が光っていても
それは既に月だけの問題に止まりはしない
なすべきか なさざるべきか これが問題だ
どんな問いも 愛の答えも
すべて政治につながっている

お前が政治的な意味を得るために
人間的である必要はない
石油であったとしても事足りたのだ
動物の餌とか リサイクルの原料だって
よかったのだ

または 生と死について論争するかたわら
会議用の机の形のことで
丸い方がいいとか 四角いのでよいとか
何ヶ月もの間 言い争っていた

その時 人間たちは断末魔の苦しみに喘ぎ
動物たちが息を引きとり
家々は燃えつき
田畑が荒れ果てていった
はるか昔の
より非政治的な時代とおなじように


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Commented by kojiro-nomama at 2015-08-22 03:36
戦争ほど愚かなことはない。
なのに不思議な地球だ。
どこかで何時も愚かなことが起こっているから…
Commented by ringo-utahime at 2015-08-22 04:03
さくら草さん、こんばんは。
いや、おはようございますかな。
コメントありがとうございます。
私は、これから寝るところです。
日曜の「現代川柳大会」でお会いいたしましょう。運転、気をつけてくださいね。

(^-^)/
by ringo-utahime | 2015-08-21 00:24 | ポエム | Comments(2)

2013年4月開設『りんご詩姫のブログ(新)』‥‥文芸川柳、フラメンコ、ボイストレーニング、パン教室、グルメ等々、趣味に生きる元気印「りんご詩姫」の〈気まぐれブログ〉。小さなスナックのママです。よろしく♡♡


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