『叫び』川柳

一度見たら忘れられない絵の一つにノルウェーの画家エドワルド・ムンク(1863~1944)の『叫び』(1893)がある。〈オスロ国立美術館所蔵〉

昔、この絵に魅了されて仕上げたジグゾーパズルもまた、友人にプレゼントしてしまった。

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ムンクは、フランスのニースで生まれて初めて見るような真っ赤な夕焼けに遭遇した時、ぞっとするような果てしない叫びが自然を貫くのを感じたという。
その体験に基づいた「叫び」だが、背景は故郷クリスティアニア(現オスロ)の町。
当時、妹のラウラが精神分裂症で入院していた病院の向かい側の風景で、その近辺では実際に心を病んだ女の叫び声が聞こえたという。
左上方の空の赤い部分に、小さな文字で「これは狂人だけが描ける絵である」と書き込まれている。

「私の絵は苦悩と悲しみの落とし子だ」と言って、心の奥底にひそむ恐怖や不安を目に見えるように描いたムンクは凄い。



課題「叫び」「叫ぶ」の川柳を集めてみた。

【叫び・叫ぶ】
あれは叫びだったのか洒落たネクタイよ(神川 敦子)
子の城の叫びが風に遮られ(山本 俊一)
ナガサキの熔けたガラスにある叫び(松下富士子)
鬼畜米英と叫んだことがある(田口 麦彦)
散りぎわの花の叫びを聞き洩らす(寺沢みど里)
捨て犬の叫びが空に消えていく(一雄)
叫んでも聞く耳持たぬ北の国(恒訓)
はがゆくて心の中で叫んでる(治佐子)
速記者の耳に怒号は分けて聞く(多聞子)
さくら咲く絵馬もいななく合格日(南山)
絶叫が落ちてくるかも遊園地(見乗)
山積みのガレキ静かに叫んでる(登三子)
ごめんなさい叫ぶわが子を抱き締める(佑子)
雄叫びもどこかに消えたマニフェスト(愛)
みちのくの鬼の叫びが木霊する(哲夫)
空爆の昨日忘れて波静か(さな恵)
いろいろな叫びを知っている瓦礫(ただじ)
山に向かって叫ぶ心をもっている(安西まさる)
叫んだら夕日が答えてくれました(西ノ坊典子)
好きですと谺が返るまで叫ぶ(石倉多美子)
ひまわりが平和を叫び天仰ぐ(金子美知子)
一票が叫ぶ犬じゃない猫じゃない(山倉 洋子)
愛を叫ぶで見なおす景色ロケ地住む(竹本 元枝)
アメリカの死角で叫ぶ平和論(北山まみどり)
動けない女神が叫ぶフリーダム(久保田 紺)
エコ節電叫ぶテレビが深夜まで(住岡 明水)
男だと叫ぶ砂浜噛む素足(岡部 美雄)
鬼は外嫌いな人の名を叫ぶ(西冨 厚子)
蟹叫ぶ海を汚したのは誰だ(篠田 東星)
外線一回ひとこと叫ぶ有難う(神 羊孤)
逆風へ走れと叫ぶマスコット(中川 英巳)
現代へ何かを叫ぶ明治村(田中 豊泉)
少年が叫ぶ明日がないように(石塚 清明)
昭和基地地球の危機を叫ぶ声(藤井 幸子)
正論を叫ぶ陽が乾した作業服(小原 金吾)
世界へと叫ぶヒロシマ核廃止(浜井 尚子)
戦争は反対天も地も叫ぶ(笠井奈那美)
太陽が黒いこどもの絵が叫ぶ(木下 草風)
地球儀を回すと叫ぶ修羅の子ら(伊藤金次郎)
注射針泣き叫ぶ子は他人の子(金泉 萬楽)
厨房でしゃもじが叫ぶ物価高(秋山 信一)
美ら海も叫ぶ基地など真っぴらと(北出 北朗)
答案用紙の誤字が助けてと叫ぶ(山倉 洋子)
反対を叫ぶ軍手は汚れない(小倉慶司郎)
百歳で萬歳叫ぶ夢がある(黒瀬 登)
ヒロシマが叫ぶ被爆六十年(妹尾 志泉)
報復かテロか地球が泣き叫ぶ(土屋 渓水)
僕がここに居ますと野の花叫ぶ(丸山 笑造)
ママはどこ赤ちゃんポスト叫ぶ声(鈴木 広路)
岬から叫ぶとストレスが消える(小倉慶司郎)
拉致された子を国境で叫ぶ母(柏 マサ枝)
両の爪もたげ弁慶蟹叫ぶ(吉田 寿天)
一行のメモの中身にある叫び(福井 菜摘)
大声で婚活中と叫びたい(石谷 恵子)
大声で叫びたいから穴を掘る(笠井奈那美)
屋上で雄叫びあげる定年日(高峰寿々丸)
雄叫びを集めて滝は迸る(種田 淑子)
改革主張相手に叫び耳になし(大野 直之)
川向う叫びたいほど好きな人(薬師神とし子)
基地よりも保育所欲しい血の叫び(只木すもも)
公害を叫び紙屑散らすデモ(桑田 唯石)
古代文学君を恋うてる火の叫び(芳賀 恵子)
孤独死の叫び届かぬ都会の灯(鈴木 弘市)
叫びたい時どこにも井戸がない(小泉 正美)
雑兵が叫びたい日の縄のれん(高竹 道雄)
信号が欲しいと回遊魚の叫び(金澤ヤス子)
震度六ムンクの叫び聞いた闇(中野 敦子)
ジーパンの穴から若者の叫び(遠藤小夜子)
受精卵こどもが欲しい血の叫び(只木すもも)
捨てないで古着の叫び聞きながら(柴田 杏子)
ストンサークル生きる祈りと地の叫び(松山 芳生)
赤飯の雄叫び鬼も退治する(篠崎 紀子)
戦争反対叫び勇気が湧いてくる(利光ナヲ子)
川柳で心の叫び自覚する(山口 耕一)
大衆の叫び開かずの戸を開ける(深町 金鳥)
魂の叫びへ踊る彫師の掌(山下 梅庵)
魂の叫びを聞いた反戦画(岡部佳代子)
近寄るなおとりの鮎の叫び声(上村 博一)
血の叫び耳疾いばかり核の国(林 福二)
頂上で叫びたい事多過ぎる(相川 雅敏)
沈黙がもしや叫びでなかったか(堀江 茂元)
爪を研ぐマエ向けマエを叫びつつ(森 一華)
テロ事件もう沢山と地の叫び(須田よしえ)
テロリスト母の叫びを聞いてみよ(田中 絢子)
天を裂く龍の雄叫び地を鎮め(佐々木江久子)
生声の高さ雄叫びに聞こえ(男武志津江)
春の雪花の叫びを包み込む(梶 泰榮)
反核を叫び非核の輪を広げ(浜井 尚子)
反対を叫び県庁まで行進(加藤 公子)
半島の叫びが天にとどかない(目片 清和)
婆ちゃんのイタイは生きている叫び(大場 孔晶)
パンの耳突然やれと叫び出す(小野 公樹)
被災地の叫び聞こえる募金箱(碓氷 祥昭)
方言の叫び勝訴のVサイン(佐渡由利子)
万年の叫び鍾乳石の伸び(生田目昭夫)
耳塞ぐ唄声ムンクの叫び声(風間 鉄夫)
無医村に叫びを抱いた日のあせり(今野つよし)
胸の内ムンクの叫びで洗い出す(舟山 知恵)
やる瀬ない飢餓に苦しむ子の叫び(杉浦 芭童)
らくがきの中に叫びがひとつある(安井 久子)
ロケットの叫び大地を遠ざかる(須田よしえ)
わぁーっと叫びたいまんまるい月だ(伊東 マコ)
若鮎の叫び鱗を光らせる(内田貴美子)
小窓から叫びつづける反戦歌(さわだまゆみ)


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by ringo-utahime | 2016-03-12 18:39 | 川柳(課題別) | Comments(6)

Commented by kojiro-nomama at 2016-03-13 07:37
厨房でしゃもじが叫ぶ物価高(秋山信一)
これ参考になりそう。
❤いつもまゆみさんの更新勉強になります。
Commented by 月波与生 at 2016-03-13 10:06 x
「叫び」という題のせいか、感情がより前に出た句が多く並びましたね。
ムンクの叫びって、音のない叫びだと思うんですが、そういう句はないんですね。
Commented by りんご詩姫 at 2016-03-13 21:51 x
さくら草さん、コメントありがとうございます。

介護と店の仕事に忙殺され、外出がままならないので、ブログアップには苦労します。
毎日が、とにかく睡眠不足です。

(^_^;)
Commented by なりひら at 2016-03-13 23:43 x
よくもまあ、これだけの「叫び川柳」を集められたものと感心しています。川柳というと「うがち、おかしみ、軽み」の3要素の複合体ですが、ここに出てくる句の中には人間社会の深層を鋭くえぐった作品も多くあり、「季語の無い俳句」と言えるかも知れませんね。
Commented by りんご詩姫 at 2016-03-14 14:54 x
与生さん、こんにちは。コメントありがとうございます。

なるほど「音のない叫び」ですか。
川柳で表現できたら、とても深い秀句になりそうですね。

o(^o^)o
Commented by りんご詩姫 at 2016-03-14 15:08 x
なりひらさん、コメントありがとうございます。

絵画を川柳の課題に結びつけてブログアップするのも楽しくなってきました。

昔、ずいぶんたくさん名画シリーズのジグゾーパズルに挑戦したんですよ。またいつか時間ができたら作りたいなあ。睡眠不足になるのが困りますけどね。

(^o^;)